ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

ミハイル・プレトニョフ、ピアノリサイタル(6月17日、東京オペラシティコンサートホール)

イメージ 1

 これはもう神の領域…と思えるほど酔わせてくれました…

 前回、2016年に同じ東京オペラシティのコンサートホールでスクリャービンラフマニノフの2番の協奏曲を演奏したときに初めて生で聴きました。そのときのアンコールで弾いたラフマニノフの「エレジー」があまりにも衝撃的で忘れられなかった(果てしない絶望の世界に客席皆が泣いていました)ので、今度は彼のソロリサイタルを聴いてみたいと思いました。

 プログラムは次のとおりです。
イメージ 2


第1部はベートーヴェンの「ロンド」で秘めやかに始まって、熱情ソナタへ。ピアノでここまで自由自在に表現できると思われるほどの音色の多彩さと表現の自在さ。彼がいつも使用するシゲルカワイのピアノは特に柔らかい音が美しく、フォルティッシモは決してガンガン迫ってくるわけではないのに聴く人の耳に迫ってくるのです。

 第1部で客席を大興奮の渦に巻き込んだあとの第2部はオールリスト、「葬送曲」に始まって「葬送行進曲」で終わり、「不運(凶星)」や「暗い雲」が含まれるどこか「絶望」を意味するような、プログラム自体がひとつの物語を意味するようなプログラム。そして、その中によく演奏される「ペトラルカのソネット」や「軽やかさ」などが登場すると、ふっと絶望の中に異なる世界が見える構成がまた絶妙…

 ピアニッシモトレモロの絶妙さ…「軽やかさ」の速い音符のまるで風が吹くような軽さ…1台のピアノでまるで何十人のオーケストラを聴いているようなスケールの大きさを感じさせました。そして、1978年のチャイコフスキーコンクールに優勝した当時のとにかくテクニックが強かったプレトニョフも健在でした。(優勝して間もない頃に来日したときのリストの「メフィストワルツ」を弾いた録音が実家にあります。あのとき私は中学生でしたが、ソ連のピアニストって何て凄いんだろう、と強烈に思ったのを覚えています)

 暗くおどろおどろしい世界を語ったあと、アンコールに弾いたのはリストの「愛の夢」、これまでとは全く対照的な甘くやわらかな世界を存分に聴かせて、この日のリサイタルは幕となりました。もしかしてこの人とっても可愛い人なのではないか、と思えた瞬間でした。

 次回のリサイタルもぜひ来たい…彼がこの先どのように進化するのか、今からますます楽しみになっています。