ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

ミハイル・プレトニョフ、ラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会 第2夜(9月21日、東京オペラシティ コンサートホール)

 3月にチケットを買って、待ち焦がれていたプレトニョフラフマニノフのピアノ協奏曲の全曲演奏会に行って来ました。今年はラフマニノフの生誕150年にあたるため、世界各地でラフマニノフのコンサートが行われています。

 今年の2月にプレトニョフのソロリサイタルが東京であったとき、うちの教室の生徒さんが2人東京まで聴きに行き、コンサートの模様をいろいろ話してくれました(1人はその場で今回のチケットを買ったそうです)。それを聞いたときから、今回は絶対に行こうと心に決めていました。

 今回のプレトニョフのコンサートは9月13日に第1番と第2番のピアノ協奏曲、21日に第3番と第4番、「パガニーニの主題による狂詩曲」、全部聴きたいのは山々でしたが、日程的に2回行くのは無理だったので、迷った末21日に決めました。

 初めチケットを取ったときは1人で行くつもりだったのですが、5月に私がツファスマンの「ジャズ組曲」を弾いたとき、プレトニョフがこの曲を弾いた動画を何度も聴いていた母が突如行きたいと言い出し、大慌てでもう1枚追加しました(そのため今回は座席が離れ離れになってしまいました)。

 

 第1部は数あるピアノ協奏曲の中で最も難しいものの一つと言われる第3番でした。「ラフマニノフの3番」といえばピアノが圧倒的なテクニックで魅了する曲というイメージが強かったのですが、この日の彼の演奏は秘めやかな雰囲気で始まりました。ピアノだけが目立つのではなく、ピアノとオーケストラが一つに溶け合って音楽を作り出していく、という感じです。もちろんデビュー当時のとにかくテクニックが強かったプレトニョフも健在で、この曲のテクニックの難しさは全く感じさせません。こういう演奏は彼しかできないのではないかと思いました。

 

 第2部は、演奏される機会がとても少ない「第4番」から始まりました。正直私はこの曲はあまり魅力のある曲ではないとずっと思っていましたが、彼の手にかかるとこんなに魅力的だったのかと思えました。第2楽章は同じメロディーが繰り返し出てくるのですが、その変化のつけ方が素晴らしい…さりげなく、しかしそこには大きな意味があることを感じさせてくれます。

 

 このピアノとオーケストラが一つに融合した演奏の魅力は最後の「パガニーニの主題による狂詩曲」で最も発揮されたかも知れません。この曲はオーケストラと合わせるのが非常に難しいのですが、指揮者としても活躍する彼がこの曲のオーケストラパートも隅々まで知り尽くしているのがよくわかる演奏だったと思います。

 この日指揮をつとめた高関健氏のX(旧ツイッター)に「指揮者が2人いるような打ち合わせ」という記述がありました。指揮者もオーケストラも綿密な打ち合わせを繰り返して曲を仕上げていったさまがよくわかる演奏だったと感じました。

 

 同じ時代に生きて聴くことができるのを心から幸せだと感じた一夜になりました。