ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

公開でレッスンを受けること

 2014年の私のリサイタルで2台ピアノのパートナーをつとめてくれたパーヴェル・ネルセシアン氏のレッスンを受けるようになって今年で8年目になります。初めてレッスンを受けたときから毎年レッスンを受けてきましたが、レッスンは公開のときも非公開のときもありました。
 
 「自分のレッスンを他の方に聴かれるのに抵抗は感じないですか?」という質問を何度か受けました。確かに大学院のときに公開レッスンを受けたときは、自分のレッスンを他の方に聴かれることは「この程度のレヴェルで恥ずかしい」という気持ちが多くありましたが、パーヴェルのレッスンを受けるようになってからはそんなことは言っていられないと思うようになりました。
 最初に彼のレッスンを受けたときも何人かの聴講者がいたように記憶しています。とにかく頭が真っ白になるくらい緊張していたのですが、そのときはとにかく彼の言うことを聞きとるのも精一杯で、聴かれてどうこうということは考えられなかったというのが正直な感想です。

 レッスンに通うようになって3年目、リサイタルで2台ピアノで弾くプロコフィエフの「シンデレラ」をモスクワ音楽院で合わせたときのこと、終わりの時間が近くなると彼のレッスンを待っている音楽院の学生が次々と入って来ました。その中には国際コンクールに入賞して、すでにメディアで顔や名前を知っている人も何人かいました。
 さすがに私は緊張しました…しかし、彼は何事もなかったようにリハーサルを進めていきます。ここで心乱れてはいけないと私は必死でついていくしかありませんでした。
 結局、モスクワ音楽院の最高レヴェルの学生達が聴いている前で彼と「シンデレラ」を弾くということになったのです。
 このときはリハーサルが終わってから彼らのレッスンを聴いていましたが、想像以上のレヴェルの高さに驚くことばかりでした。コンチェルトのレッスンのときは彼らは楽譜を1冊しか持って来ないのです。そしてその1冊を先生に渡して自分は暗譜で演奏します。これを目の当たりにした私は次のレッスンのときからコンチェルトは意地でも暗譜して、楽譜は1冊だけでレッスンに行くようになったのですが…
 このときの学生達のレッスンは入れ替わり立ち代わり誰かが聴いていました。そしてそのことを気にしする人など誰もいなくて、実にオープンな雰囲気でした。聴かれて嫌だとか恥ずかしいなどと言っていたらここではやっていけないのだと私は悟ったのです。

 この出来事がきっかけで私は自分のレッスンを聴かれることには全く抵抗がなくなりました。自分にとっては一番怖いのは彼で、どんな大きな本番で弾くよりも彼一人の前で弾く方が緊張します。これは今でも同じですが、今後も何とか自分の限界を上に押し上げるために頑張って行きたいと思っています。