ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

パーヴェルのこと

 今月23日のリサイタルまであと2週間余りとなりました。(詳細はこちらでごらんになれます)来週は炎熱地獄の東京でリハーサルなので、ここで体調を崩したら大変だと思って少々緊張ぎみです。

 今回、後半のプロコフィエフプレトニョフ編曲)の「2台のピアノのための組曲 シンデレラ」でパートナーをつとめてくれるのは、モスクワ音楽院教授のピアニスト、パーヴェル・ネルセシアン氏です。
 ずっとロシア語を習っていた日本ユーラシア協会で何度も彼を招へいしていたので、聴く機会はありましたが、強く印象に残ったのは、2011年、モスクワのチャイコフスキーコンサートホールでお弟子さんであるフィリップ・カパチェフスキーとのモーツァルトプーランクの「2台のピアノのためのコンチェルト」を聴いたときでした。
 プーランクのコンチェルトで第1奏者をつとめていたカパチェフスキーがパーヴェルのサポートのもと、実にのびのびと弾いていたのです。
 こういう人と2台ができたらいいなあ、とそのとき思いましたが、まさか現実になるとはこのときはまったく思いませんでした。
 
 その1か月後、彼のソロリサイタルを札幌で聴いたときに、この人のレッスンを受けてみたいと思って直接連絡すると、すぐに彼が毎年レッスンをしている八王子のレッスンの主催者を紹介してくれ、翌年からここに通ってレッスンを受けるようになりました。
 初めてレッスンを受けたのが、プロコフィエフの「ロミオとジュリエットからの10の小品」。踊りを知りぬいた彼のセンスとリズム感に驚嘆しました。
 このときすでに次のリサイタルで「シンデレラ」をやりたいという構想は固まっていましたが、パートナーはまだ決まっていませんでした。できれば踊りのわかる人に弾いて欲しいという願いはありましたが、あては全くありませんでした。
 
 この忘れがたい「ロミオとジュリエット」のレッスンのあと、何とか彼に次のリサイタルでの「シンデレラ」を一緒に弾いて欲しいという願いが芽生えました。
 しかし、思い立ってすぐに頼める人ではありません。いろいろな方々に相談し、背中を押して頂き、最終的には自分で彼にメールを書きました。
 彼がこの話を受けてくれたときは嬉しさより「これは大変なことになった」と思いました。しかし、話が決まった以上、もうやるしかない、と開き直りました。
 病気から立ち直って、このタイミングで彼に出会ったことは何か意味のあることだと思いました。自分のできることをすべてやろう…そんな気持ちでした。

 しかし、今回のことで一番大変だったのはピアノでもロシア語でもなく、彼のビザのことだったと思います。ビザのことは何もわからなかったので、行政書士の方に相談して助けて頂きました。それをロシア語に直して何度も彼に送りました。(これも専門のロシア語通訳の方に助けて頂きました)
 緊張と慣れない法律用語(ロシア語も!)の嵐で7キロ痩せました。
 苦しいことばかりだったけれど、そのたびにまわりにその道に明るい人が現れて助けてくれました。そういう意味では私は幸運だったのかも知れません。

 彼と合わせのスケジュールを立てるのもとても大変でした。多忙な彼の後を追いかけるように、1回目は1月に八王子で、2回目は6月にモスクワで、3回目は東京での予定です。
 前回のモスクワより良くなっているように、只今準備に余念がない日々です。