ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

パーヴェル・ネルセシアン、ピアノリサイタル(8月13日、カワイ表参道パウゼ)

 パーヴェル・ネルセシアンの毎年恒例のカワイ表参道のリサイタルに行って来ました。昨年は10月の全国ツアーもあってたくさん聴くことができたのですが、今年の彼の日本でのコンサートはこの1回だけなので、貴重です。
 今年のプログラムは、
  ビゼー:ラインの歌
  シューマン子供の情景
  ショパンピアノソナタ第3番

 ビゼーの作品は初めて聴くものでした。「暁」「出発」「夢想」「ジプシー女」「秘密」「帰還」の6曲からなり、それぞれの曲に物語があって、雄弁に聴く人に語りかけてきます。特に4曲目の「ジプシー女」のリズム感、そして「秘密」のなまめかしい秘めやかさが印象に残りました。
 そして、次の「子供の情景」のファンタジックな雰囲気が絶品でした。以前に聴いたチャイコフスキーの「子供のアルバム」もそうでしたが、テクニック的に極めて平坦なものを生きた音楽にするのは、テクニックが難しいものよりはるかに大変です。どうやったらこんなに色彩豊かな物語を紡ぐことができるのだろう、と思いながら聴いていました。
 最後のショパンソナタは今まで多くの演奏を聴きましたが、こんなに柔らかく自然体な演奏を聴いたことはありませんでした。印象的だったのは右手で2声部を弾くところ、一般に上の声部ははっきりと、内声はひかえめに弾くと教えられるところなのですが、それが逆になっているのです。下の声部の方をすこしはっきり出しながら上の声部をピアニッシモで弾いているのですが、それが見事なバランスを保っていました。以前にバッハのフーガをレッスンに持って行ったとき、上の声部を大きく、下の声部をひかえめにというワンパターンの出し方だけではダメだと言われたことがあります。音の大きさに関係なくすべてのパートのどこを切り取っても美しくなくてはならないということ、自分で気づいていないことがたくさんあったと思い知らされました。

 アンコールはシューベルトの「3つの小品 D946」より第2番、とショパンエチュード 作品25-2、ショパンエチュードの右手のタッチの究極の軽さが衝撃的でさえありました。

 昨年の全国公演から更に進化した感じです。いったい彼の演奏がこの先どうなっていくのか、楽しみにしながら聴き続けていきたいと思っています。