ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

パーヴェル・ネルセシアン ピアノチャリティーコンサート(12月4日、豊洲シビックセンター)

 つい先日終わった浜松国際ピアノコンクールの審査員として来日していたパーヴェル・ネルセシアンのコンサートが今年できたばかりの豊洲シビックセンターで行われました。
 プログラムは、チャイコフスキーの「四季」、ベートーヴェンソナタ27番と月光ソナタです。
 昨年私が札幌でのリサイタルで「四季」を弾いたとき、何度か彼にレッスンを受け、前日まで厳しく直されたので、今回彼がどんな「四季」を弾くのかとても興味があり、何とかスケジュールをやり繰りしてコンサート当日に飛んでいきました。

 彼が「四季」を弾き始めたとき、レッスンの中で彼がアドヴァイスしてくれた様々なことが頭に浮かびました。
 2011年に東京文化会館で同じ「四季」を聴いたときよりも更に随所に工夫がこらされ、内声の隅々にまで神経の行き届いた演奏でした。
 その中の大きなポイントは左手の使い方ではなかったかと思うのです。
 レッスンを受けたとき、彼は曲の各声部ごとの音色の色分けについてとても詳しく解説してくれました。何とかついて行こうと必死だった私ですが、今思えばいろいろ考え過ぎて、特に左手の内声部をおろそかにしていたように感じます。恐らくいくら言っても私ができなかった部分があったのではないでしょうか。
 今年の3月に私が右手を怪我して弾けなかったとき、彼は「左手の曲を弾きなさい。出口はそれしかない」というメールを送ってくれました。彼に断固として言われてラヴェルの「左手のための協奏曲」を勉強したのですが、今思えば、ああいうことがなかったら私が徹底的に自分の左手と向き合って勉強する機会はなかったのかも知れません。また今回彼の演奏を聴いて左手の重要性をこんなに感じることもなかったでしょう。
 後半のベートーヴェンでも感じたことですが、彼の最大の魅力は自然体であることではないかと私はいつも思っています。

 終わって楽屋に会いに行くと、彼は私の飛行機が遅れなかったかどうか気にしていました。この日札幌は吹雪の予報が出ていたのですが、予報は外れ、札幌も千歳も晴天…(吹雪は東北地方に行ったらしく、青森と岩手花巻便が欠航していました)飛行機の遅れも1時間以内で済みました。

 彼と同じ時代を生きて演奏を聴けることに限りない幸せを覚えた一夜でした。そして、どんなに厳しくて辛くてもこの先も彼のレッスンを受け続けたいと心の底から思っています。