ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

イリヤ・イーティン、ピアノリサイタル

 6月9日、ロシアのピアニスト、イリヤ・イーティンのリサイタルに行って来ました。
 
 この人の名前を初めて知ったのは、私の師匠、パーヴェル・ネルセシアンとニューヨークで弾いたプロコフィエフの「シンデレラ」の動画でした(動画はこちらです)。ちょうどそのとき、私も翌年のリサイタルでパーヴェルと「シンデレラ」を弾くことが決まっていたので、この動画を何度も見て勉強しました。
 その後、東京でのリサイタルのチラシを目にして、イリヤが現在、武蔵野音楽大学(私の母の母校でもある)の客員教授をつとめていることも知り、いつか聴いてみたいとずっと思っていました。

 プログラムは、
   モーツァルトソナタ K.332
          ソナタ K.457
ソナタ K.533/494
   シューマン:交響的練習曲 作品13

モーツァルトの3曲のソナタの中では、特に3曲目が良かったと思いました。初めから終わりまでとても密度が濃く、特に内声に細かく気を配っているところが印象に残りました。そして、内声に気を配りながら高音域のメロディーがまた全く違う音色で響いていて、それが見事な調和を保っていました。
 そして、出色だったのが、アンコールの最後に弾いたチャイコフスキーの「瞑想曲」、これぞチャイコフスキー、という感じにピタリとはまっていました。
 さまざまなロシアのピアニストを聴いてきましたが、根底にあるのはまずしっかりしたテクニック、そしてその上で音楽をのびやかに表現するところが共通しています。あとはそれぞれの個性の上に花開くのでしょう。
 パーヴェルともまた違う個性で、こういう表現もあるのかと新たに気づくことも多いコンサートでした。そして、ロシアのピアニストの層の厚さ、彼らを育ててきたロシアの音楽教育の土壌の素晴らしさを改めて感じることになった一日でした。

 この日イリヤとは初対面だったのですが、SNSなどで繋がっていたので全くそんな感じがしませんでした。私の顔を見た途端に、それまで英語で話していたのがロシア語になって「よく知っています」と言われました。