ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

ミハイル・プレトニョフ 協奏曲の夕べ(7月1日、東京オペラシティ コンサートホール)

 先週、お休みの間に行ったもう一つのコンサートはロシアのピアニスト、ミハイル・プレトニョフでした。ピアニストとしてのみではなくて、指揮者、作曲、編曲家としても広く知られています。私はバレエ音楽から彼がピアノ曲に編曲した作品がとても好きで、今まで「くるみ割り人形」、「眠れる森の美女」(ピアノソロ用)、そして2014年の自分のリサイタルで2台ピアノ用に編曲された「シンデレラ」をパーヴェル・ネルセシアンと一緒に弾きました。
 
 プレトニョフチャイコフスキーコンクールで優勝したとき、私は中学生でした。実家にそのすぐあとに彼が来日した時の演奏をラジオからカセットテープに録音したものが残っていて、「ソ連の人って何て凄いんだろう」と思った記憶があります。それから数多く来日していますが、札幌に来たことは一度もなかったような気がします。
 このカセットテープのときからずっと生で聴いてみたいと思っていましたが、なぜか実現せずに30年以上の時がたちました。一時ピアニスト活動をやめ、指揮活動のみになったときはもう聴けないと諦めたのですが、3年ほど前にピアニスト活動を再開したと聞いたときは、札幌で待っていてもいつになるかわからない、今度こそ絶対東京まで聴きに行こうと思っていました。

 プログラムはスクリャービンラフマニノフの2番のピアノ協奏曲、初めにスクリャービンの「夢想」作品24(オーケストラの曲)が追加されていました。

 スクリャービンのピアノの第1音が出たとき、その柔らかさに息を飲みました。もうどこまでも自然体なのです。特にラフマニノフの2番はその音の多さ、和音の厚さから今までどうしても懸命に弾く演奏を聴くことが多かったのですが、彼はそれを何事もなかったようにさらっと弾きました。体もほとんど動いていません。
 何か人間業を超えたものを感じました…
 アンコールのラフマニノフの「エレジー」は客席のあちこちで泣いている人がいたし、私も第1音から涙がボロボロッと出てしまったのですが、この日のプログラムの中でこの曲が一番凄かったのではないかと思います。
 ピアノをやめていた何年間かの間に彼の中でいろいろな変化があったのでしょう。彼は来年還暦を迎えるそうですが、若手の俊英とは一味も二味も違う演奏だったと感じました。

 今回の彼の来日ツアーはこの日(7月1日)から始まり、兵庫、京都、東京、豊田でリサイタルをするようです。すべてのコンサートを聴く予定の友達もいて、心の底から羨ましいと思いました。
 今後、年齢とともに彼の演奏がどう変化いくのか、見逃せないですね。これからはずっと聴き続けていきたいと思っています。