ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

パーヴェル・ネルセシアン ピアノリサイタル(1月16日、八王子いちょうホール)

 新年早々、しばらく更新できませんでした。やはり年末年始風邪にやられて、完治しないうちに仕事が始まってしまい、パーヴェル(ネルセシアン)のレッスンの準備が大幅に遅れることとなってしまいましたので、怒涛のように忙しく、何が何だかわからないうちに出発の日になってしまった感じです。
 ようやく無事に札幌に戻ってこのブログを書いているところです。

 昨年8月の私のリサイタルで2台ピアノのパートナーをつとめてくれたことで、私は改めて彼の凄さを再認識し、このリサイタルの日を心待ちにしていました。今回は、あのとき実家でリハーサルをしたことで彼とすっかり顔なじみになった私の両親も一緒です。

 昨年のリサイタルから八王子で裏方のお手伝いもさせて頂いています。もちろん私の仕事は通訳、本番での段取りを彼と打ち合わせて舞台裏のスタッフに伝えることと、楽屋の鍵の管理です。
 ロシア語は随分頑張っても彼と最初に会う日は必ず何かやらかす私なのですが、今回は前日に彼に会ったため、この日が初日にならずに済みました。

 5時過ぎに彼がホールに到着、間髪入れずにリハーサルです。客席でじっとリハーサルを見守りました。彼がどう調整するのか直に見ることができるのは裏方の最大の特権だと私は毎年思っています。

 今回は、彼が初来日したときから知っていて彼と親しかった山梨県在住のT先生という方が昨年亡くなって、コンサートの初めにこの先生のための追悼演奏がありました。(ショパンノクターン 遺作)開演前、楽屋から舞台に向かう途中、彼は私にT先生の思い出を語ってくれました。私はお会いしたことはなかったのですが、この先生のおかげで八王子に毎年彼が来ることになったのだそうです。

 この追悼演奏のあと始まった本プログラムは
 プロコフィエフ:4つの小品 作品32
 チャイコフスキー:24のやさしい小品集 作品39(全曲)
          12の小品集 作品40より とぎれた夢
          2つの小品 作品10より ユモレスク
 プロコフィエフソナタ第6番 作品82
でした。

 初めのプロコフィエフの小品は4つの舞曲で構成されているものです。彼の舞曲に対するセンスが余すところなく発揮されていて、昨年私のリサイタルで一緒に弾いた「シンデレラ」をリハーサルしていたときのことを思い出しました。
 そして、特に印象に残ったのはチャイコフスキーの小品とプロコフィエフソナタの対比でした。チャイコフスキーの小品は子供たちのレッスンでもよく使われるテクニック的には極めてシンプルなものですが、彼が弾くとその一つ一つが宝物のようにキラキラ輝いて聞こえました。
 その素朴さと圧倒的なプロコフィエフソナタの差が見事だっと思います。
 アンコールは、昨年好評で再演希望の声が多かったシューベルト(リスト編曲)の「セレナード」、リャードフの「オルゴール」、そして3曲目は、8月の私のリサイタルの前日に札幌でみてくれたとき最後まで怒られたチャイコフスキーの「四季」から「秋の歌(10月)」でした。
 すべてが終わって舞台袖に引き上げてきた彼と目が合ったとき、彼は本当に嬉しそうににっこり笑いました。本人にとっても会心の出来だったようです。それだけに彼は私が客席ではなく舞台袖にいたので聞こえなかったのではないかと心配していました。

 来て下さったお客様も皆、喜んでくれたようです。私のところに入ってきた声はやはり賞賛の声ばかりでした。
 リサイタルの通訳はやはり、緊張した空間なので神経をすり減らすことが多いのですが、2回目で私も少し慣れましたね…客席では聴けませんでしたが、また別のことでいろいろと得るものが大きかったと思います。