ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

バッハ

 パーヴェル・ネルセシアンのレッスンを受けにボストンへ行く日が迫ってきました。ピアノだけではなく、いろいろな渡航準備にも追われる毎日です。
 今回は彼は私が行く間はだいたいボストンにいるようです。初めはこの秋に弾く曲だけをレッスンに持って行こうと思っていたのですが、充分に大きなプログラムを用意するようにと言われて(かなりビビりました。彼の言う大きなプログラムとはどのくらいの量なのか、私とはかけ離れた感覚なのだろうと思いました)、今回バッハの曲も持って行こうと決心しました。

 今、学生コンクールの真っ最中でもありますが、主要なコンクールや音楽学校の入試などには必ずバッハの曲が課題として出されることが多いです。私自身も大学院を修了するまではバッハの平均律などを随分熱心にさらっていました。しかし、公開の場で弾いたのは1994年のリサイタルのとき(イタリア協奏曲)が最後で、その後ロシアの作品がレパートリーの中心になると、リサイタルのプログラムもロシアものがほとんどになり、バッハの曲はほとんどやっていませんでした。
 しかし、生徒さんの日常のレッスンやコンクール、試験などの指導では頻繁にバッハの曲が登場します。自分がバッハについて何も進歩していないのはまずいと思いました。日本でレッスンを受けていたときはその年に弾く曲だけで一杯だったので、今回は良いチャンスです。
 自分のバッハの演奏を最も厳しい目の下にさらすのは怖いと思いました。今まで何もわかっていなかったと言われるかも知れません。しかし、わからないままこのままずっと行くよりも今からでも学ぶ方がずっと良いことだと思い、選曲に取りかかりました。

 まず、バッハと言えばまずフーガ、これはインヴェンションやシンフォニアの指導にも通じるものです。これは平均律の48曲の中から1巻の23番、これは非常に滑らかさを求められるものです。そしてもう1曲、対照的に軽さを求められる2巻の15番にしました。楽譜に書かれた書き込みを見ながらさらっていると学生の頃いろいろ注意されたことを思い出します。今考えると注意されてもできていなかったこともあっただろうと思われました。
 あともう1曲は「フランス組曲第5番」、これはアルマンドクーラント、ジグなどの舞曲が出てくるものです。先日、一日だけバロックダンスの講習会に行ってこれらの舞曲に合わせてほんの少しだけステップを踏んでみました。一日だけでは数ある古典舞曲のステップを覚えることは到底不可能でしたが、この経験が演奏に生かせればと思っています。
 2年前、彼と2台ピアノで一緒にプロコフィエフプレトニョフ編)の「シンデレラ」を弾いたとき一番凄いと思ったのは、彼のバレエの曲に対するリズム感でした。古典舞曲はバレエの元になったものです。これらの曲に彼がどうアプローチするのかとても興味があります。

 アメリカに行くのは初めてで何かと緊張していたら今日、ニューヨークのマンハッタンでテロが疑われる爆発があり、多数の人が負傷しました。ニューヨークとボストンは370キロしか離れていません。もはや何に気をつけたら良いかわからないような状態ですが、充分に気をつけて今まで知らなかった新しい文化圏を見て、たくさん吸収してきたい思っています。