ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

パーヴェル・ネルセシアンのオンラインレッスン

 モスクワ音楽院ボストン大学の教授をつとめるロシアのピアニスト、パーヴェル・ネルセシアンのレッスンを受けるようになって9年目になります。今年はコロナ禍のため5月のロシア行きが中止になってしまい、もう今年は無理だと諦めていたのですが、暮れも押し迫った12月29日、オンラインでレッスンを受けることがかないました。

 

 今年はコロナ禍で決まっていたコンサートがすべて中止になってしまった上に5月に左足を骨折し、すっかり演奏から遠ざかってしまいました。体力だけではなく気力も落ちてしまい、曲を通して弾ききることができなくなってさえいたのです。

 自分はこのまま弾けなくなるのではないか…

 左足のリハビリがもう少しで終わるころ、私はかなりの危機感を抱いていました。コロナ禍にもかかわらず熱心な生徒さんたちが頻繁にレッスンに来て下さるのに、私の方がどんどん落ちていくのは申し訳なく、耐えがたいことでした。

 パーヴェルとはリハビリ生活中も連絡を取り合っていて、左足が治ってペダルが踏めるようになったらオンラインレッスンを受けたいという希望は伝えていたのですが、9月末、正式にレッスンをお願いしました。

 

 今回のプログラムは、

 バッハ:平均律第2巻 第12番 BWV881

 ショパンマズルカ 作品17-4

 ラヴェル:古風なるメヌエット

です。

 ショパンラヴェルは来年3月の発表会で演奏するものですが、その他に4年前ボストンにレッスンを受けに行ったときのバッハのレッスンが凄く良かったので、平均律も入れることにしました。

 プログラムは決まっても、練習する体力が足りなくてモチベーションの上がらない日々…特に12月に入ってからはあまり体調が良くなく、最後の最後まで苦しい展開が続きました。パーヴェルと2台ピアノを共演したとき(2014年8月)のことなど別世界のように感じながら、それでも懸命に自分と闘い、ついに12月29日午後5時(モスクワ時間同日午前11時、時間の打ち合わせはすべてモスクワ時間でしています)を迎えました。

 

 私は一つ大きく息をついてZoomを接続しました…

 彼の顔がディスプレイに映りました…

 

 最初に弾いたときはもうこれ以上は緊張できないと思うほどガクガクで、記憶が飛んでしまっていたのですが、実際にレッスンが始まると、彼の強烈な何かに引きずられて一気に演奏の感覚が戻っていくのがわかり、あまりの強烈さに涙がこぼれました…

 師匠、ドレンスキーの追悼コンサート(今年12月3日)で彼が弾いたマズルカの自由自在で羽が生えたような軽さ…私は自分の演奏がどれだけ拙いのか意識する間もなく、彼に乗せられて弾いてしまったような気がします。そしてその後にに弾いたラヴェルでは私は完全に以前の感覚以上のものを取り戻して弾いていました。

 ラヴェルでは作品を生んだ時代背景やラヴェルが影響を受けた作曲家、作家、詩人などの詳しい説明がありました。いつもよりも説明が少し多めだったかも知れません。ロシア語力も必須でこちらも不安だらけだったのですが、12月に入ってからオンラインでロシア語のレッスンを受けていたので、何とか内容を理解することができました。

 

 レッスンが終わったとき、私はすっかり以前の演奏の感覚を取り戻していました。

 もちろんオンラインでは対面レッスンのようにいかないところもありました。しかし、Zoomを通して迫ってくる彼の迫力は大変なものでした。オンラインってどんな感じなのだろうとずっと不安に思っていたのですが、心の底からレッスンを受けて良かったと思いました。

 

 コロナ禍だからレッスンに行けない、

と嘆くより、

 コロナ禍でもオンラインがあればいつでもレッスンを受けられる、

と思えば気持ちも明るくなり、前向きになれますよね。

 まだまだコロナ禍が続くであろう新しい年、このように少しでも前向きな気持ちで過ごして行きたいと思います。

 

 コロナ禍の他に足も骨折し、私にとっても辛いことばかりだった2020年でしたが、

 終わり良ければすべて良し、

になったようです。

 

 皆様もどうか良いお年をお迎え下さい…