ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

モチベーション

 あまりに強烈な体験をしたあと、大きく落ち込むのは人間の自然な摂理なのかも知れません。8月のリサイタルのときは、ピアノ以外のことでも大変なことが多かったのに、終わる前から終わったらさぞかし辛いのではないかと思っていました。
 しかし、予想に反して疲れも比較的短期間で治まり、すぐに気持ちを次に向けることができたつもりでいました。
 リサイタル後体調がどのようになるか全く読めなかったので、この秋はコンサートを何も入れていませんでした。ゆったり過ごして他の人の演奏も聴き、音楽以外のいろいろなものにも目を向けて、心と体を整えようと思っていました。

 しかし、10月に入り、札幌が朝晩冷えるようになると、まるで坂道を転がり落ちるように心身共に崩れ始めました。
 教室の生徒さんでも風邪をひいている人が増えてきていました。たちまちうつってしまい、まだ暖房を入れていなかった部屋で(ちゃんと20度あったのですが)寒さに震えながらレッスンすることとなりました。それ以上に深刻だったのは、体力が落ちると同時に精神的な落ち込みがひどくなって行ったのです。
 まず、毎朝日課にしていたロシア語ニュースがガクッと聞こえなくなりました。日本語よりもロシア語は当然読んだり聞いたりするのに緊張をともないます。Facebookやウェブサイトのロシア語の記事も最後まで読む気力が湧いてきません。
 ピアノの練習も少し続けるとすぐ疲れてしまい、新しい曲の譜読みもなかなか進みません。紅葉シーズン真っ盛りですが、どこかに出かけようという気も全く起こりません。食欲もほとんどなく、食べ物をムリに口に押し込んでいる状態…リサイタルが終わったら太ると思っていたのに、体重は増えるどころではありません。
 8日の晩は、家に帰りついた途端に熱を出し、ついに10日のロシア語の授業を休んでしまいました。

 どうしてこんなことになってしまったのだろう…

 幸い、13日(体育の日)に続けて14日のレッスンもお休みだったので、この間何も予定を入れないで家でゆっくり過ごし、いろいろ考えました。
 次のコンサートはまだ先だし、それまでに何か目標を設定しないとダメだと思いました。

 リサイタルで2台ピアノのパートナーをつとめてくれたパーヴェル(ネルセシアン)のレッスンはここ2年間、彼が日本に来るときは欠かさず受けていました。しかし、今後どうするのかははっきり決めていませんでした。
 次回彼が日本に来る来年の1月に彼に会う用事ができたので、このときに思い切ってまた彼のレッスンを受けることに決めました。どのような形になるかはまだわかりませんが、同じ舞台を共にして、改めて彼の凄さを肌で感じ、やっぱり彼からもっと学びたいと心の底から思いました。

 これでようやくモチベーションが上がって気持ちが前向きになりました。

 結局、私は何かに追われていないとダメみたい…何ということだろう…束の間の休みを何も満喫することがなく、落ち込んで過ごしたのです。

 来月からはまた準備のための東京行きが始まります。