ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

9・11の場所

 2001年9月11日に起こったアメリカ同時多発テロ事件から昨日、9月11日で20年ということで、今週は様々なメディアでこの事件の報道を目にしました。

 20年前この事件が起こったときは、ちょうど声楽の恩師のリサイタルの伴奏があと数日に迫っていて、最終の仕上げに夜遅くまでレッスン室に閉じこもっていました。そして練習を終えて降りてくると、テレビの画面に飛行機が高層ビルに突っ込んで行く衝撃的な映像が映っていたのです。

 何かそれは現実ではなく、ショッキングな映画かドラマを見ているような気がしたのを覚えています。

 このとき私はまだアメリカに行ったことがありませんでした。ワールドトレードセンターへの飛行機の突入、そしてその後の惨劇の場面を幾度となく報道で目にしても、それは自分にとって遠い国の出来事のように感じたと記憶しています。

 

 15年後の2016年、私は師匠であるパーヴェル(ネルセシアン)のレッスンを受けるため、生まれて初めてボストンに行くことになりました。

 学校時代は5教科の中で英語が一番嫌いだった上、当時ロシアに全精力を注ぎこんでいたので、ハーバード大学がボストンにあることも知らなかったほどのアメリカ音痴でした。しかし、行くならばアメリカのことを知らなければならないと思い、片っ端からアメリカについて調べ始めました。思い立ったらとことんのめり込むタイプの私は毎日アメリカの地理、歴史から在米の日本人のエッセイまで、蚕が桑の葉を食べ続けるように読み続けました。同時多発テロについてもこのとき初めて詳しいことを知ったのです。

 

 初めてのアメリカでは、それまで何度か訪れたロシアとはまた違った文化に触れ、刺激が一杯の毎日でした。

 そしてパーヴェルのレッスンがお休みだった2016年10月14日、私はボストンからニューヨークまで一人列車に揺られました。

 ボストン、サウスステーションを出発してから3時間半、列車はニューヨーク、ペンシルベニア駅(通称Penn Station)に滑りこみました。

 初めてのニューヨーク…何もかもが物凄い速さで進んでいて、24時間眠らない街

   ホテル(地下鉄Times Sq-42 st. 近く)の部屋に荷物を置いて、ロビーに降りて行きました。ニューヨーク行きは日本出発後に決めたので、日本語のガイドブックを持って来ていませんでした。何とかニューヨークにたどり着いたのに、私はどこへ行けるのか、どこがおすすめなのか、全くわかっていなかったのです。

 ロビーにはいろいろな観光地の案内が置いてありました。同時多発テロがあったワールドトレードセンターの跡地には新しいビルが完成していて、展望台もできたようでした。

 しかし、私はあのテロで多くの血が流された場所に観光に行く気にはなれませんでした。日本人も多数含まれていたという3000人の犠牲者に私は心の中でそっと手を合わせて、タイムズスクエアを散策に出かけました。

 

 翌日、エンパイヤーステートビルに行って、主目的だったニューヨークシティーバレエを観て、夜遅く列車でボストンに戻ってきました。

 このときのブログです。

アメリカだより2016 第3回(全5回) - ピアノのある部屋から

 

 このあと2日間パーヴェルのレッスンを受け、10月18日に私はボストン、ローガン空港からダラス・フォートワース空港に向けて飛び立ちました。

 ハイジャックされてワールドトレードセンターに突っ込んだ航空機は2機ともボストン発でした。ダラスに飛び立つ前、ハイジャック機はこのローガン空港の国内線ターミナルから出発したのだと思った時、今まで遠い国の出来事だったことが物凄い勢いで自分に迫ってくるように感じたのです…