ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

発表会に向けて2

 3月15日の発表会まであとちょうど5週間、出演者は皆、曲の仕上げに入りました。2月に入り、より一層力が入ってきている感じがします。

 出演者の多くは暗譜で演奏しますが、この「暗譜」にも思いがけない落とし穴が控えているのです。
 譜読みに時間がかかるけれど譜読み完了と同時に暗譜ができてしまうタイプ、
 譜読みは早く初見演奏は得意だが暗譜に時間がかかるタイプ、
 多くの方はこのどちらかだと思います。(譜読みも暗譜も早いという能力を兼ね備えた人は、私も今まで数人しかお目にかかっていません)これはどちらが良いということはないと私は考えていますので、人によって足りないところを補っていくようにアドヴァイスします。

 暗譜で弾くのであれば断然前者の方が有利だと思われがちですが、実はそうとも言えないのです。
 音を覚えて弾けるようになってしまうとどうしてもそのあと楽譜を見なくなります。楽譜に書いてある強弱や表情記号、アクセントやテヌートがどこにあるかなどはきちんと覚えないで弾いてしまいます。私自身もこのタイプですが、細かい楽譜の指示をきちんと把握することが大切だと気付いたのは、実は最近になってからでした。自分がいかに細かい指示を無視して弾いていたかを痛感し、今ではすっかり暗譜ができた本番直前も必ず楽譜を見る時間を作り、見落としがないかどうかチェックするようにしています。

 今の時期、すでに音を覚えてしまっていると思える出演者には、あえて暗譜をしないで楽譜を置いて弾いてもらうこともあります。楽譜を置いていれば、細かい記号が目に入ってきます。「ここにこんな記号があったなんて…」と気づくことも多いのです。気づかないまま本番を迎えてしまうよりもずっと良いのではないかと考えています。
 
 10数年前、来日公演の合間に私のリサイタルを聴きにきてくれたロシアのチェリストに「音を出さないでじっと楽譜を見てみなさい」と言われたことがあります。多分当時の私の演奏は楽譜の細かい指示を全く無視したものだったのでしょう。(当時はただきちんと弾ければ良いと考えて弾いていましたので…)
 早速ためしてみました。とても根気のいる辛い作業でしたが、音を出さないで頭の中だけで曲を鳴らすことは非常に大切なことだと気づきました。
 以来、主に移動の飛行機などの中でできる限りするようにしています。