ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

ひとつひとつ。少しずつ。(鈴木明子、著)

 以前からフィギュアスケートが好きで、特にソチオリンピックは夜中にもかかわらず夢中になって観ました。(子供の頃、スケート教室に通ったこともありましたが、あまり上達はしませんでした…)
 激戦で選ばれた日本代表の女子選手の中で特に応援していたのが彼女でした。病気を克服して息の長い選手生活を続けていることに共感していたからだと思います。
 彼女が本を出すということを知ったとき、これはぜひ読んでみたいと思い、先日東京に行ったときに買い、機内で一気に読み上げました。

 今の日本でトップ選手の座を維持し続けてていくということは本当に大変なことのようです。この本には彼女がどうやって葛藤を克服して選手生活を続けてきたかが素直に書かれています。
 
 大事なのは「自分に何ができたのか」です。他人と比べてできたかどうかではありません。(本書より)

 多方面からの注目を浴び、自分を見失いそうになることもあったようです。その中でどう自分とどう向き合って演技をするかということはなによりも大事なこと、これができない選手は結果を出すことができません。(これはピアニストにも当てはまることですね)

 いつもいつも調子が良いわけではない…若い選手がどんどん台頭してくる中で自分の技術は拙いと悩んだこともあったようです。

 一番印象に残ったのは、やはり彼女が闘病していたときの記録でした。
 
 私自身が演奏活動を休んでいたときの記憶が生々しく思い出され、泣きながら読みました。
 休んでいる間にいろいろなところから入ってくる、かつて同じ舞台に立った仲間たちの活躍…なのに自分の手はタオルさえ満足に絞ることができない…私自身にもそんな時期がありました。
 あれから6年がたちましたが、私の心の傷は消えることはないし、彼女もそうだろうと思います。

 「もし、病気になる前に戻れたら」そう考えても何も変わりません。(本書より)

 これは私も何度も考えました。でも本当に戻れない…この本に書かれているように、自分の体を新しく作り直していく、この部分にもっとも大きな共感を覚えました。
 病気を克服して競技に戻ってきた彼女はいつも「スケートができる喜び」を全身で発していたように思います。
 これからはプロスケーターとして活躍を続けていくようですが、また息長く活躍して欲しいですね。また、現役選手中はかなわなかったけど、いつか彼女が滑る姿を生で観たいと思います。

 そして…いろいろな幸運が重なって舞台に戻ることができた私には、思いもしなかった「偉大なパートナーとの出会い」が待っていたのです…
 このことについてはまた改めて書きますね…