ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

語学で大切なことはやめないこと。

 ロシアのウクライナへの侵攻が始まって3ヶ月が過ぎました。少しでも犠牲が少なく、早く戦闘が終わりますようにという願いもむなしく、毎日目を覆いたくなるような残虐な映像が流れてきます。同時に日本国内でも「ロシア=悪」のような風潮が拡がり、ロシア人に対する中傷や嫌がらせが頻発していることを目にするようになりました。

 私も含め、今まで何らかの形でロシアと関係があった多くの方々が胸を痛めていることと思います。

 次にロシアを訪れる機会が私の生きているうちに来るかどうかわかりません。そんな中でロシア語を勉強するテンションを保ち続けるのはかなりの努力が必要でした。

 

 まず何といっても大きかったのは師匠のパーヴェル・ネルセシアン氏の存在、コロナ禍でロシアにレッスンに行けなくなってもオンラインでレッスンを受け、ときにはいろいろ質問したりできたことが、コンサートがなくなり心の拠り所をなくしていた私の大きな支えになっていました。彼との間はすべてロシア語だったので、ロシア語をやめれば彼とコミュニケーションが取れなくなってしまいます。

 また、語学は使わなければどんどん忘れていくので、20数年かけて今のレベルまでたどり着いた(もちろんまだまだ不自由なところはたくさんありますが)ロシア語をみすみす捨ててしまうのも悲しいことでした。

 

 どんな状況になっても続けよう、ほどなく私は決心していました。

 12月にリサイタルが決まったため(詳しい内容はまた追ってお知らせいたします)、いろいろなことが急に動き出して忙しくなったのだけど、とにかく毎日ロシア語に触れること、を目標に何とか続けています。

 月に2回のオンラインでのレッスン、その他に言葉の響きを忘れないための毎朝のネットでのロシア語ニュースの視聴、そして音楽用語を覚えるのに不可欠なのがロシアのクラシック専門のラジオ「オルフェイ」です。このラジオで私は音楽用語や作曲家、演奏家などのロシア式の発音を覚えました。しかし、モスクワ音楽院のホールやチャイコフスキーコンサートホールなどの名前が出るたびに、もう行けないかも知れないと空しい気持ちになることもよくあります。

 

 そして最近強く思うことは、ウクライナにもロシア語話者がたくさんいるということ、ニュースなどで聞く戦火に苦しむ人々の叫びも半分くらいはロシア語です(私はウクライナ語はわかりません)。現在、日本にもウクライナから多くの人が避難してきています。彼らにとって一番大変なことの一つが言葉の壁ではないでしょうか。自分がロシア語を続けることで彼らの助けになれる場面があるかも知れません。

 

 先日、JRの恵比寿駅で案内板のキリル文字を不快だと苦情を入れた人がいるというニュースを聞いたときは、悲しさを通り越して半ば呆れてしまいました。キリル文字はロシア語だけのものではなく、ウクライナや東ヨーロッパやモンゴルでも使われています。このブログでは人の悪口と愚痴は書かないと決めていたのですが、駅に苦情を入れるなら、そのあたりのことまできちんと調べた上で行動に出るべきではないでしょうか。