ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

バレエの王子になる(NHK、BSプレミアム)

 番組予告が出たときからこれは観たいと思っていたのに、本放送は逃してしまい、再放送でやっと録画ができました。ロシアの伝統あるバレエ学校、ワガノワ・バレエアカデミーでプロのバレエダンサーを目指す男の子たちの物語です。

 以前にもワガノワのドキュメンタリーは放映されていましたが、そのときは女の子が主人公だったように思います。それだけに今回の番組は「バレエは女の子のもの」という巷の旧来の概念を吹き飛ばすようなインパクトがありました。

 ワガノワアカデミーの最終学年、8年生男子の卒業試験(国家試験、ロシアではバレエダンサーは国家公務員で、国家試験にパスしないとプロにはなれません)、バレエ団の入団オーディション、卒業公演の様子を追っています。

 

 私は長年ロシア人にピアノのレッスンを受けてきて、彼らの芸術に対する厳しさを強く感じてきましたが、バレエも同じ、皆、完璧を求めて限界まで力を振り絞って試験の準備をします。8年間厳しく訓練されてきた彼らでもすべての動きを完璧にできるわけではなく、できないところをできるようにするのに、とにかく気の遠くなるような練習がずっと続きます。舞台で奇跡は絶対に起こらない…理屈抜きでとにかく稽古を「やれ!」なのです。

 

 物語の主人公は4人の男の子たち、成績トップの優等生のミーシャは、やはりレッスンでも際立っています。日本人の母を持つイギリス出身のアロンは背の低さをカバーするために得意なジャンプの強化につとめます。そして完璧な体型でとても美形なのだけど、熱意が足りないといつも怒られているキリル…家が貧しくてモデルのアルバイトをしないとやっていけないという事情を抱えて、やはり両立に苦労して、大切な国家試験の日に熱を出してしまったりします。教える側には何となく怠けているように見えてしまうのかも知れません。

 無事国家試験を終えた後は、今度は就職試験、バレエ団の入団オーディションが続きます。成績はミーシャに次ぐ二番なのにオーディションに落ち続けたフィンランド出身のマルコ…校内で成績が良くてもなかなか外では通用しなかったりする厳しさも描かれています。

 

 指導にあたっている校長、ニコライ・ツェスカリーゼは現役時代、ボリショイの公演で観たことがあります。この校長の生徒たちへの厳しくも暖かい愛情が感じられました。彼らの髪形にまで細かく気を配り、試験直前に整髪スプレーを持って生徒たちの髪を整えて歩く姿が特に印象に残りました。

 

 最後はミーシャ、アロン、マルコの3人はマリンスキー劇場に、キリルはボリショイ劇場に入団が決まって、皆、無事にプロとしてのキャリアをスタートさせることになります。本当に大変なのはこれからだと思うけど、4人のこれからの活躍は本当に楽しみですね。

 

 ところで、この番組はロシア語のヒヤリングを鍛えるのにとても役立っています。ピアノのレッスンにも役立つ単語もたくさんあり、ロシア人の話す速さに慣れるのに絶好の教材になっています。

 

 この国家試験の全編をおさめた動画がyouTubeに上がっています。全編を観ると改めてその厳しさを感じます。

https://www.youtube.com/watch?v=ZVieKK1AH4w