ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

この道は母へとつづく(映画 ロシア 2005年)

 数年前日本で公開されたとき どこかでチラシをもらっていたのですが、なぜか見ないまま時間がたっていました。一週間ほど前 BSジャパンで放送があり、すっかりハマッてしまったのです…

 日本でもかなり話題になっていたので ご存じの方も多いと思いますが、ストーリーはロシア版「母をたずねて」、主人公の少年ワーニャがたった一人で列車に乗って母親をさがしにゆきます。ただ アミーチスの「母をたずねて」はお母さんが遠くに働きに行っていたのですが、この作品は親に捨てられた子供たちがいる孤児院が舞台で、より深刻な設定になっています。やはり2年くらい前にNHKで放送された「揺れる大国 プーチンのロシア」や「シベリア鉄道2008」にも出てきましたが、ロシアでも貧富の差やその他さまざまな事情によって子供を捨てる親がいて、このような孤児院は今でも各地にあるようです。

 孤児院で暮らす6才のワーニャは裕福なイタリア人の夫婦の養子になることが決まるのですが、そんなとき すでに養子に行った友達アリョーシャの母親が現れたことで自分の本当の母親に会いたいと思い始めます。そして年上の子たちに字を習い、母親の手がかりをつかんで孤児院を脱走し、追手から逃れながらたった一人で旅を続けていくのです。

 孤児院の子たちは皆 幼な心に自分は捨てられたという心の傷を抱えて暮らしています。「僕は預けられたのか捨てられたのか知りたい」とワーニャが言う場面や、ワーニャの友達アントンが「自分は駅で拾われたから本当の名字もわからない」と言う場面は 彼らが抱えている深い哀しみが迫ってきます。
 私の教室にも同じくらいの年齢の子たちがたくさん通ってきていますので、「このくらいの子供たちなんだ…」と暗澹とした気持ちにさせられました。

 また 年長の子たちには院を陰で牛耳る不良グループがあって、盗みやカツアゲをしてお金を貯めているのです。
 しかし 問題行動ばかり起こしている彼らの心の触れ合いもしっかりと描かれています。不良グループのリーダー カリャーンが 自分が孤児院を脱走して母親のもとに帰ったのに すぐに追い返された経験をワーニャに話し、そんなふうになるくらいなら養子に行った方が良いとさとす場面はとても印象に残り、彼らはただ悪いだけではないのだ、と感じました。そして ワーニャの「ママに会いたい」という気持ちをわかって、駅まで連れていくのは 日頃売春で金を稼いでいる少女イールカだったのです。

 ワーニャが探している母親の名前はヴェーラ、ロシア語で「信じる」という意味の名前です。ワーニャは自分は必ずママに会えると信じていたのですね。
 
 よく外国語上達法などに「お気に入りの映画を見つけてとことん見ること」と書いてあるのを目にします。この映画はまさに私のロシア語の勉強にもうってつけだと思い、何度も見ることにしました。
 でも 不良グループの悪ガキどもの悪い言葉も一緒に覚えてしまいそう…