ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

学校の伴奏

 うちの教室は発表会が毎年3月なので、何人かの生徒さんは卒業式などで歌う歌の伴奏を発表会の曲と並行して準備しています。自分のレベルより上の曲に挑戦している生徒さんにとって同じ時期にもう1曲を練習するのはやはりかなり大変です。

 

 今年伴奏が決まった生徒さんは私のところにレッスンに来るようになって5年目、発表会で長年憧れてきた曲を弾けることが決まって、とても喜んで意欲的に練習を始めていました。そんなとき発表会の2日後の卒業式での伴奏が決まったのです。

 早速楽譜を見せてもらったのですが、これが発表会の曲を上回るレベル…冬休みだから時間があるだろうと思ったのですが、正月休みが終わっても譜読みはあまり進まず、冬休みが終わるころになると焦りが見え始め、心が折れそうになっているのがわかりました。当然発表会の曲の方の練習も進んでいません。

 

 「決まったからにはどちらもきちんと弾きたい」

 

 と彼女は私に言いました。しかしどうしたら良いかわからないと。

 

 このようなときの心のケアはとても大切です。私も非常に悩みましたが、思い切って彼女に言いました。

 

 「こうなったら目の前のものから一つずつ片付けていこう。焦っていても何も変わらない。まず皆との合わせが迫っている伴奏の方を先に仕上げよう」

 

 私はその週は伴奏だけに集中するように彼女に言いました。

 これは大きな賭けでした。その週で伴奏が先が見えるところまでできなければ、発表会の曲の練習に大きな影響が出ます。ドキドキしながら次のレッスンを待ちました。

 

 そして翌週…

 

 何とか皆と合わせられるところまで仕上げてきたので、その週からは発表会の曲も一緒に練習するように言いました。伴奏が何とかできたことで彼女もホッとした気持ちになったようです。

 

 その翌週からは発表会の曲と学校の伴奏を並行してレッスンを進めることができるようになりました。彼女にとってはとても苦しい冬休みから3学期になったようですが、この体験はとても実り多いものだったと思います。将来大人になって一度にたくさんのことをこなさなければならなくなったときに、彼女は必ずこのときのことを思い出すでしょう。

 この先、来月の本番がどちらも良いものになるように仕上げをしていきたいと思っています。