ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

続、チャイコフスキーコンクール

 7月7日の記事の続きを待っていた皆様、大変お待たせいたしました。昨日までリサイタル(8月12日)の準備のため東京に行っていて、帰りの機内で書こうと思っていたのですが、離陸と同時にスマホを持ったまま爆睡…今日になってしまいました。

 

 日本人2人、黒岩航紀さんと田所マルセルさんの演奏は大変に充実したものだったと思います。特に黒岩さんの1次予選のハイドンソナタは爽快感あふれるリズムが特に印象に残りました。

 また田所さんが1次予選で弾いたベートーヴェンの16番のソナタも見事でした。今まで私はこの曲をあまり魅力的だと思ったことがなかったのですが、こんなに音楽的に弾く演奏に初めてお目にかかったと思いました。

 お二人ともこのコンクールへの参加を決めるにあたって相当の葛藤があったことはSNS等で読みました。私はロシアの音楽院の授業が普通に行われていることは知っていましたが、ニュースで毎日戦争のことが報道され、多くの人が死んでいる国に行って演奏をすることは精神的に本当に大変だったことと思います。

 日本や西側諸国の方々でこのコンクールに向けて準備していて、参加を諦めた方も多くいたと思います。周到に準備をしていたのに国の事情で断念、というのはあまりにも無念ですね。次回は2027年になるようですが、そのときまでに一刻も早く戦争が終わって、また世界中からこのコンクールに参加できるようになって欲しいと思いました。

 

 西側諸国からの参加者が少なかったのに対して、今回は中国や韓国の方が多く参加していました。ピアノ部門のファイナルにも中国人と韓国人が一人ずつ残りました。

 その中で4位に入賞した中国のXuanyi Maoの2次予選でのストラヴィンスキーの「ペトルーシュカからの3楽章」が特に印象に残りました。彼女の手の大きさはちょうど私と同じくらいで、配信を見ていて手の使い方で勉強になるところが多くありました。ロシアのむくつけき大男たちの手は私の手より二回り以上大きく、鍵盤上の手の使い方を見ていても、自分の手に置き換えて考えることはとてもできませんでしたので。

 

 今回のコンクールは日本語の情報が非常に少なかったので、公式サイトのロシア語版とテレグラムで情報を得ていました。早く知りたいと一生懸命読むのでロシア語の読みの訓練にはとても役立ちました。

 配信では演奏の合間に参加者のインタビューやリハーサル風景などを見るのがとても楽しかったです。ロシア語力は4年前の前回の時より上がっていたようだったので、とてもほっとしました。

 

 コンクールが終わったあと、このコンクールのピアノ部門の歴史をたどった番組が放送され、同時にYouTubeで配信されました。ピアノ部門の審査委員長、デニス・マツーエフが司会をしていました。これがとても面白くて、何回も見てしまいました。

 第6回(1978年)で第1位だったのは現在日本でも絶大なる人気を誇るミハイル・プレトニョフですが、このとき2位になったのは、私が今年4月に浜離宮朝日ホールで2台ピアノ版の「ファウスト交響曲」を聴いたフランスのパスカル・ドヴァイヨンでした(4月13日の記事参照)。このサン=サーンスの2番の協奏曲が本当に素晴らしかったことを付け加えておきたいと思います。