ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

パーヴェル・ネルセシアン、ピアノリサイタル(3月30日、東京文化会館小ホール)

 10年前からレッスンを受けているパーヴェル・ネルセシアン氏の東京公演を聴きに行って来ました。コロナ禍だけでも大変なのに、その上ウクライナで戦争が始まってしまい、果たして開催できるのか心配だったのですが、無事入国できてリサイタル開催のはこびとなりました。

f:id:nakazoey:20220401221447j:plain

 

 コロナ禍に入ってから私はオンラインでレッスンを受けていましたが、どうしても彼の生の音に触れたくて、教室発表会の9日前というリスキーな時期に3回目のワクチン接種を受け、副反応に耐え、東京行きに備えました。

 プログラムは次のとおりです。

f:id:nakazoey:20220401221545j:plain

 

 彼のプログラムには何らかのテーマがあることの多いのですが、今回は「祭り」でしょうか?

 1曲目の「ウィーンの謝肉祭の道化」の最初は割と賑やかな雰囲気のイメージが強かったのですが、彼の入り方は割とソフトで、何か優しく語りを始めるような雰囲気で、これもまた充分に説得力があるものだったと思います。

 そして、私が一番楽しみにしていたプーランク、1曲1曲が磨かれた宝物のように、いろいろな色を感じました。最近の彼の演奏を聴いていると、ピアノの音色はいったいどこまで豊富に使い分けられるのだろうと思うのですが、本当に聴くたびに音色が増えていくのです。

 出色だったのは、後半の最初に弾いたフランスのバロック時代の作品の数々、クラブサンの雰囲気が見事にピアノで再現されていて、特に細かい音型の美しさにため息が出ました。

 

 終わったあとの拍手が凄かった…会場は熱気に溢れました。まさに心と心がつながったコンサートでした。この中にロシアの芸術を排除しようと思う人はいなかったでしょう。

 私は泣いてはいけないと思いながらも、涙をこらえることができませんでした。

 

 コロナ禍のため終演後のサイン会や面会はなかったのですが、楽屋入口のところから少しだけ顔を出してくれました。マスクに隠れていましたが、今まで見たことがないほどほっとした顔をしていたと思います。

 

 メールのやり取りは頻繁にしていましたし、オンラインでレッスンを受けていたのであまり久しぶりという感じはしなかったのですが、やはり彼の生の音のインパクトは非常に大きいものがありました。

 コロナ禍だけでも大変なのに、その上ウクライナで戦争が始まってしまって、やはりとても心労の多い日々だったようです。わずかな間に祖国ロシアが世界を敵に回すという状況になって平気でいられる人などいないと思いますが、一時私は彼が心身ともに壊れてしまうのではないかと心配になっていました。

 しかし、このような事態になっても彼の音楽に対する姿勢は微塵も揺らぐことがありませんでした。改めて凄いと思いました。

 どんな状況下でも黙々と自分のやるべきことをやる…彼は今回そう教えてくれたような気がします。