ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

アンナ・カレーニナ

 来月26日のリサイタルで初めて全曲に挑戦する作品が、シチェドリンのバレエ「アンナ・カレーニナ」からの2つの小品(プレトニョフ編曲)です。昨年のミニコンサート「ロシア音楽の歴史をたずねて」では第3回目に1曲目の「プロローグ」のみ演奏いたしましたが、今回は2曲目の「乗馬」もプログラムに入れました。
 作曲者シチェドリンはロシアの大バレリーナマイヤ・プリセツカヤ(1925-2015)の夫君で、彼が作曲し、彼女が踊るという作品を多数発表しています。ロシア文学を題材にしたものは、ほかに「小犬を連れた奥さん」「かもめ」、あと有名なものでは「カルメン組曲ビゼーの音楽からの編曲、フィギュアスケートや新体操などでよく使われているが、それが彼の編曲であることを知る人は少ない)」などがあります。
 また、他にもたくさんの作品を発表していてロシアでは非常に知られた存在であるにもかかわらず、日本で一般には「プリセツカヤの夫」としてしか知られていないのは、とても難解な作品が多いからかも知れません。
 昨年「プロローグ」を初めて弾いたときにちらっと楽譜を見たときは「乗馬」は自分には無理だと思いました。しかし、今回のリサイタルのために改めてプログラムを組み直してみると、やはり両方を通して弾いてみたいと思い、勉強を始めました。
 
 覚悟して始めたものの、非常に難解でした。彼の作品の和声は完全に機能和声は逸脱しており、7度と9度を中心に和音が書かれています。しかし、全部不協和音かと思いきや、ところどころに調性が感じられる箇所があり、はっとさせられるのです。
 若い頃は現代作品が大嫌いだったので、このような複雑な和声には慣れていませんでした。老眼が進むこの年齢になって、彼の作品にどうしようもなく惹かれていく自分に気がついたときは、若い頃にもう少し現代ものに慣れておけばよかったと思ったのですが、今さら言っても始まりません。加線が何本あるのか何の音に臨時記号がついているのか判別できないところもあり、虫眼鏡と老眼鏡を使って読んだものに音名をふったところもありました。

 3月の発表会の後、一時期シチェドリン漬けになってようやく何とか先が見えてきたとき、この不協和音はヴロンスキーと恋に落ち、やがて何もかも失っていく主人公アンナの心の葛藤だと思えるようになりました。プリセツカヤが主演したバレエの映画も観ました。
 
 アンナの物語を深く皆様に伝えられるよう、5月26日頑張ります…
 (コンサートの詳細は4月1日の記事  こちら をごらん下さい)