ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

ロシアだより 2014 その5

 前回の続き。

   6月22日(日)
 モスクワから90キロほどのクリンという町にあるチャイコフスキー博物館に行ってきました。
 モスクワに10回近く来ていて、実はクリンには一度も行ったことがありませんでした。今回はリサイタルの前半がチャイコフスキーの「四季」なので、どうしても行きたいと思いました。
 ホテルでエクスクルシア(見学ツアー)を頼む手もありましたが、結局一人で電車で行くことにしました。

 地下鉄を乗り継いでまずコムソモリスカヤ駅へ。ここはクリンに行く電車の出発点であるレニングラード駅に直結しています。

 
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11時ころ駅に着いたので時刻表を見てみたら、11:18があったので、これに乗ろうと思ったら下に時刻変更の張り紙が出ていました。結局出発は11:48、初めての近郊電車での一人旅です。
 座席は日曜日だったのでダーチャ(別荘)に行く人で結構混んでいました。面白いと思ったのは、食べ物や飲み物だけではなく、日用品を車内で売る人がいること、彼らはマイクを車内に持ち込んで商品の宣伝をするのです。なかなか面白かったのですが、車内アナウンスが聞こえなくなるのにはまいりました。

 30分ほど走るとニュータウン団地の景色から郊外へ出ました。緑が眩しく、初夏の自然の勢いが感じられます。一軒家がたくさん並んでいます。いつか習ったロシアの詩のような世界です。このあたりは別荘地でしょうか。
 クリンに着いたのは13:15。駅前でお昼を食べて、博物館行きのバスを探しました。すぐ乗れたのはラッキーだったのですが、アナウンスも何もなく、どこで降りるのかもわからない…隣に座っていたオバサンに聞くと、降りたあとの博物館への行き方まで親切に教えてくれて、助かりました。何も目印がないんですね。一人で初めてでは何もわかりません。
 
 バス停から5分ほど歩いたところに博物館はありました。
 こうしてやっと到着です。

 まず2階の展示室へ。ここにはチャイコフスキーの写真、彼の使った楽譜、オペラ「エフゲニー オネーギン」「スペードの女王」「マゼッパ」の衣装や小道具、そして彼の使ったピアノなどが展示されていました。
 そして、外に出て庭を横切り、彼が晩年に暮らした家へ…
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チャイコフスキーの時代から時が止まってしまったような、チャイコフスキーしかいない空間でした。
庭に出てみると、聞こえるのは鳥の声だけの静かな静かな時間…
ベンチに座ってじっと静けさに身をひたしていると、昨日までレッスンを受けていた「四季」の世界が迫って来ました。
 自分はこの世界を舞台で表現できるのだろうか…
 そう思うと身体が震えてきて、涙が止まらなくなりました…
庭のチャイコフスキー銅像のところで1時間以上過ごし、風が少し涼しくなってきたところで私はようやく我に返りました。
帰らなくちゃ…
モスクワまでまた100キロを戻らなくてはなりません。
 8月に「四季」を弾くこの時期にここに来られて本当によかった…そして一人で来られたことに大きな意義がありました。
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(クリン駅にあるチャイコフスキー像)

 帰りは17:39クリン発、19:14モスクワ、レニングラード駅着。電車に乗ったときとても喉が渇いていたのでアイスを買って食べながら、元来た線路を戻ります。(今日は行けなかったけどこの線路をクリンを越えてずっと行くとサンクトペテルブルクにたどり着きます)
レニングラード駅に着く一つ手前の駅が「オスタンキノ」という駅で、ホテルの窓から見えるオスタンキノテレビ塔が見える…よほどここで降りてしまおうかと思ったのですが、とんでもなく遠かったら困るので、またおとなしくレニングラード駅まで戻り、地下鉄で帰って来ました。

 つづく。(次回が最終回です)