ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

ウラーノワのジュリエット

 昨年5月 東京文化会館のパーヴェル・ネルセシアンのリサイタルのあと、楽屋を尋ねた私に彼はこう言いました。
 「あなた ウラーノワに似てる…」
 これは今まで私が誰かに似ていると言われた中で一番嬉しいものでした。(ロシア語が堪能な方が一緒にいたので私の聞き間違いではありません…)
 それ以来 この往年のバレリーナに俄然興味が湧きました。家に帰ってバレエ雑誌などを引っ張り出してみると いくつか記事やインタビューが見つかりました。
 1910年生まれ、1998年没、1930年代から50年代にかけてボリショイ劇場で活躍し、現役を退いたあとも教師として多くのバレリーナを育てました。私が子供の頃憧れたバレリーナ、リュドミーラ・セメニャーカを教えている映像もうちにありました。

 今年8月にパーヴェルのマスタークラスを受けることが決まって、受講曲目をプロコフィエフの「ロミオとジュリエットからの10の小品」に決めて彼に送ったあと、たまたま渋谷のタワレコに行ってバレエのDVDを見ていたら何とウラーノワ主演の「ロミオとジュリエット」が…
 引き寄せられるように即刻購入…

 何とも…匂い立つように美しい…現代のバレリーナに比べてたくさん足が上がるわけでも多く回れるわけでもないのに、そのたたずまい、そして気品…お正月休みの間 取りつかれたようにこればかり見ていました。

 パーヴェルのイメージの中のジュリエットはもしかしたらこの人なのだろうか…私と同い年の彼もウラーノワを実際に見たことはないだろうが、多分家族にウラーノワのファンがいるのかも知れないですね。
 いずれにしても本当にバレエに詳しいことは確かなようです。
 
 この 絵画から抜け出てきたような美しさ、このイメージをピアノで表すのは本当に大変…今はもう一度楽譜とオーケストラスコアを開いて 一つ一つのフレーズや記号をよく見直して頭に入れ直しています。プロコフィエフは強弱や表情を表す記号を非常に細かく書いていて、まるで針の穴に糸を通し続けるような細かい作業なのですが、何度も弾いたことがある曲なので、前と同じではなくもっと進歩したい。自分でできる最高の状態にしてパーヴェルのところに持って行こうと思っています。

 マスタークラスを受けるということは自分を最高の状態にして、その限界を更に上に押し上げていくこと…並大抵の闘いではないのです。