ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

ドームラの音色(ねいろ)

 先週の金曜日のレッスンのあと、ふきのとうホールに「松井亜樹ソプラノリサイタル」を聴きに行きました。長年、ロシアの作品を中心にしたリサイタルを続けてきた彼女は、まだロシア作品を歌う人が少ない札幌では実に頼もしい存在です。
 今回はロシア、ノヴォシビルスクからドームラ(ロシアの民族楽器の一つ)の第一人者、アンドレイ・クガエフスキー氏を招聘し、ドームラのソロや共演する作品をプログラムに入れていました。
 そのドームラの音色にすっかり惹き込まれてしまったのです…
 私もロシア作品を中心に演奏を続けてきましたので、ドームラがどのような楽器かということは知っていましたが、こんなに様々な音色で語りかけることができるとは知りませんでした。その音楽の大きさに圧倒され、興奮冷めやらぬまま家路につきました。

 そして、翌日の土曜日…

 アンドレイの新千歳空港への送迎の通訳を頼まれていました。そして空港に向かう前もう一つ、あることを頼まれました。20年ほど前、彼は札幌の筝の先生のところに滞在してレッスンを受けていたことがありました。その先生はすでに亡くなられているのですが、ご主人にできればお会いしたい、ということでした。何度目かで電話が繋がり、ホテルのロビーで待ち合わせをした彼と、急いで先生宅に向かいました。
 感激の対面でした…側で見ていた私も思わず涙ぐみました。
 レッスンをしていた大広間や彼が泊まっていた部屋を私も見せて頂きました。
 そして、懐かしい話に花が咲きました。直接話せるところは英語で、その他は私が訳しながらでしたが、お二人の様子を見ていて、本当にここに来られて良かったと思いました。

 先生宅をおいとましてからはずっと話をしながらホテルまで歩いて帰ってきました。彼は実にいろいろなところに演奏で行っていてその話も楽しかったし(写真も見せてもらいました)、ロシアやその他の国々の第一級の演奏家との共演も数多くあるそうです。特に有名なところではヴァイオリンのワディム・レーピン(レーピンの奥さんはバレエダンサーのスヴェトラーナ・ザハーロワ)、ピアノのボリス・ベレゾフスキー、ニコライ・ルガンスキーなど。あと、プレトニョフと会った時の話もしてくれました。奥さんがピアニストということもあってピアノにも非常に詳しく、特に2015年のチャイコフスキーコンクールの話題になると途端に熱くなっていました。
 シベリアの人は頑強だとは聞いていましたが、とにかく歩く歩く…この日の私の万歩計は15900歩にもなりました。普段車生活をしている軟弱者の私はこんな数字が出たことなどなかったのですが…

 そして、この体験で私のロシア語の会話力は大きく進歩しました。実は失敗もあったし、他にも行き届かないところがあったと思いますが、本当にロシア語のブラッシュアップの貴重な機会を頂いたことを心から感謝しています。彼が満足して帰ってくれていたら良いのですが…

 今も私の頭の中に、あのドームラの音色が鳴り続けています。またあの音色に出会える日を心から待ちたいと思います。