ピアノのある部屋から

ピアニスト、中添由美子がピアノのこと、教室のレッスンのこと、ロシアのこと、その他日々のいろいろを書き綴ります。

タンボフで聴いたピアニスト

 皆様にご心配頂いた目は何とか回復し、時短ですがコンタクトが使えるようになりました。ホッとして一息ついたとき、ショッキングなニュースが飛び込んできました。

 

 2018年10月29日、ロシア、タンボフ州イワノフカのラフマニノフ博物館を訪問した後、現地でお世話になった秘書のイリーナ(当時タンボフ在住、現在はグルジアトビリシ在住)に「音楽学校で素晴らしいコンサートがあるから一緒に行かない?」と誘われました。

 ラフマニノフ記念タンボフ音楽学校の地下のホールで彼女と一緒にそのコンサートを聴きました。

 

 演奏者はパーヴェル・クシュニール、この音楽学校からモスクワ音楽院に進み、各地で活躍していた若いピアニスト、曲目はバッハのパルティータ全曲でした。

 右上に貼ってあるのがこのコンサートのチラシです。

 素晴らしい演奏でした。バッハのパルティータのみというとかく単調になりやすいプログラムで、実に見事にそれぞれの舞曲を弾き分けていました。そのときから彼は私の中で「もう一度聴きたいピアニスト」にノミネートされていました。

 このコンサートを聴いた後私は一人タクシーでタンボフ駅に向かい、モスクワ行きの夜行列車に乗ったのです(当時の様子を書いたブログはこちらですロシアだより2018 第4回(全6回) - ピアノのある部屋から)。

 

 その彼が拘留中のビロビジャン(ハバロフスクから約150キロ、シベリア鉄道本線が通っています)の拘置施設で亡くなったという記事をSNSで見つけました。

 ロシア語だったので、慌ててわからない単語は辞書をひいて詳しい情報を調べました。

 更にいろいろ調べていくと日本語のブログもいくつか見つかりました。

 その中の一つです

反戦活動家のロシア人ピアニスト、拘留中に死亡 | office yamane

 

 私は彼が反体制活動家としても活動していたことは知りませんでした。調べたところによると、今年の5月に反体制の活動によって逮捕され、7月に亡くなりました。死因はハンガーストライキ、現在の体制に抗議してのことだったようです。

 そして彼を追悼して世界の名だたる演奏家たちが公開書簡を発表したのです。11月18日にはパリでコンサートも行なわれたようです。こちらの記事に詳しく載っています。

クラシック音楽とアート : プーチンの犠牲者パヴェル・クシュニールの追悼コンサートを開催|ソコロフ & ババヤン

 

 芸術の面でも世界の分断化が進んで行くように感じます。有史以来芸術は常に政治に翻弄されてきたわけですが、現代もまだそれが続いていると思うと悲しい。

 そして何よりも「またどこかで聴きたい」と強く願っていた彼の演奏がもう聴けないと思うともっと悲しいのです。